三
三角さん (8ddx9plh)2022/6/24 15:56 (No.26808)削除『夜美くくるのエンドロール』
くくるの半生に関する独白(SS)です。一応FAの枠に収まるかなーとは思うんですが、もしSSがダメだったらお申し付けください🙇♀️
ぼくの人生のピークは、恐らく5歳の時だったのだと思う。
お父さんもお母さんも兄さんたちも、おじいちゃんもおばあちゃんも皆が皆、ぼく自身ですらぼくを天才だと思っていた頃。
兄さんの真似事でおもちゃのピアノを触っていたぼくを見て、お母さんはすぐにピアノの先生をつけてくれた。毎日何時間もピアノと楽譜に向かい合って練習するのは楽しかった。だって大好きなお父さんとお母さんが期待してくれてるのがわかったから。
そうして何時間と練習する毎日を続けて半年、ぼくはあっという間に"普通の5歳"に出来る限界まで上達した。
音感はあった。技術もあった。環境にも恵まれてた。でも才能が無かった。ぼくの才能は"普通"で打ち止め。兄さんたちのような天才にはなれなかった。
お父さんもお母さんも、天才じゃなかったぼくへの興味を無くした。兄さんたちは少しは気にかけてくれたけど、いかんせん天才の兄さんたちは忙しくて時間が無かった。ぼくはひとりになった。
それからの人生は蛇足も蛇足、不必要な続編、ちゃぶ台返しのクソ以下の物語。
いちばん大好きな人たちに失望されることと愛されないことを知ったぼくは、他人に愛情を求めた。
ぼくもきみを愛するから、ぼくを愛して。そんな身勝手な欲は夜美の名前だったりぼくの顔のつくりのおかげか度々叶ったけれど、そのどれもがすぐに破れた。だからかぼくはもう半分自暴自棄になって、色んな人と付き合ったり身体を重ねたりした。それでも埋まらない空白にぼくは焦る。焦って、また失敗する。失敗する。失敗する。失敗する。
「あなたからは愛を感じられない」
なんで?ぼくはちゃんと愛してたよ。
「きみの愛情は空虚だね」
ぼくなりに頑張ったつもりだったんだよ。
「くくるくんって、愛してる"つもり"だよね」
どうしてそんなことを言うの?ぼくの何がいけなかったの?ねえ教えて、ねえ。ねえ、ぼくを捨てないで…!
そうやって失敗を繰り返して、繰り返して、繰り返して。もう何度目かも分からない愛情の喪失を引き摺ったまま、今までよりずっと年上のとある男の人とホテルに行った時のこと。
「君が愛しているのは僕ではなく、欲している愛も僕からのものではないだろう。僕には、君が求める愛は与えられないよ。」
…なんで、ダメなの。仕方ないじゃん。だって、お父さんもお母さんも、もうぼくのことなんて見てくれないんだもん。だったら、違う人に愛して貰って埋めるんじゃダメなの?お父さんもお母さんも、もう二度とぼくを愛してくれないのに?
「君は御両親を諦めるべきだ。親元を離れて、新しい世界を知るべきなんだよ。もちろん、そのための援助なら幾らでもしよう。」
どうして?ぼくはお父さんとお母さんの子供なのに、親に愛されたいって思っちゃダメなの?
「そういうわけじゃない。でも、君の御両親は君を自分たちの子供だとは思っていないかもしれない。だからこそ君は彼らから離れるべきだと、僕は考えているよ。」
…………。
「そうだね、同い年か…ひとつふたつ離れているくらいの子が良いだろう。くくるくん、君にはお友達が必要だ。君の相談に乗ってくれる、君が大切だと思える友達がね。」
そんなの、いたことないよ。これからだって、きっと……
「うん、だからこれから作るんだ。幸いなことに、僕にはそういうツテがあってね。くくるくんさえ良ければ、とある学園への入学に必要なものを手配しよう。」
…そこに行けば、ぼくは愛して貰えるの?
「必ず。」
………行って、みる。
「うん。任せて。きっと大事な人が出来るよ。」
ぼくの、第二の人生が始まった瞬間だった。